日時:令和6年12月13日(金) 14:30~
場所:福井県自治会館および福井経編興業株式会社
講師:福井経編興業株式会社 代表取締役社長 髙木義秀 氏
テーマ『衣料から医療へ挑戦~下町ロケット2“リアル”ガウディ計画~』
午後からは、経編生地の製造をされている福井経編興業株式会社様にお伺いし、髙木氏のご講演とともに、会社見学をさせていただきました。
冒頭で髙木氏が、経営のキモは人間ネットワークを作ることが重要であること、そのネットワークをより広くする上で、メディア戦略にも重きを置くことが必要であると仰いました。
ご講演の中で、上記の髙木氏のお考えに至った経緯と、それによってどのような成果が得られたかが以下の3点となります。
① シーズにばかり捕らわれず、ニーズを知ることで新しい分野に飛び込めた。
国内の大手企業が軒を連ねて出展するような海外の博覧会に、中小企業として出展するに際し、天然繊維を使用した経編を開発されましたが、いくら独自の技術や製法、製品の素晴らしさ発表しても、来訪者の興味を引きつけることができなかったそうです。その代わりに、博覧会に参加したことで、6ミリ以下の人工血管の開発が求められていることを知ることができ、自社にその情報を持ち帰り、プロジェクトチームを発足させ、開発を重ねた結果、2012年に量産化技術の開発に成功し、医療分野への参入に繋がったとのことです。
自分の高い技術力や知識や独自性というシーズを活かすためには、まず市場が登場を求めているニーズを探ることが重要である、逆にいえば、いくら良いシーズがあって自分的には良い物が作れたと思っていても、それにニーズが無ければ、広まることはないそれは仰いました。
② ニーズに適うものは人の目に留まり、波及していく。
人工血管が多くのメディアに取り上げられ、大阪医科大学の根本教授の目に留まり、会談に機会を得ました。お互いに国産技術が海外製品に押されている現状に対して打開せねばならないという共通の考えを持つ上で、根本教授から先天性の心臓疾患を患う小児患者の手術で使用される心臓修復パッチが、既存の製品では小児の成長に連れて取り替えが必要で、度重なる手術による小児への肉体的負担と金銭的負担を軽減することができないものかという相談を受け、求められているニーズがさらにあることを知ったとのことです。
こうして心臓修復パッチの開発を進めていく中で、2014年に知人から取材協力の依頼が舞い込んできました。池井戸潤氏原作の新作小説「陸王」の執筆に際して、シューズのメッシュ素材の製法や技術に対して情報提供を行いましたが、髙木氏が自社で取り組んでいる心臓修復パッチと、池井戸氏が新たに執筆に取りかかろうとしていた小説の題材が心臓弁という同じ医療分野であることを知り、重ね重ねコミュニケーションをはかるうちに、根本教授を池井戸氏に紹介、ご本人の福井に来訪され、様々な意見交換を行うことができたそうです。
その後、新たに開発した心臓修復パッチの臨床手術に、根岸教授、池井戸氏とともに見学するという貴重な機会を経て、池井戸氏の新作小説「下町ロケット2 ガウディ計画」に繋がりました。
小説は話題を呼び、その後、NHKで特集が組まれ、日本には凄い技術がまだまだ有るという発信だけでなく、80周年を迎える会社として、その恩返しとして心臓病を患う人たちに希望を与え、救うことができる仕事ができたと仰いました。
③ 対話のキャッチボールが、強い人間ネットワークを創る。
このように、髙木氏は人とのつながりを活かし、ニーズを知り、製品開発に繋げ、それを達成してこられました。
その中でも、氏は、人と話すときには、相手の話したいことを探り、自分から話を切り出し、その後は相手の話を聞くという話のキャッチボールを大切にされています。これは上記の根本教授や池井戸氏という社外で会う人だけでなく、社内にも等しく実践されています。社外で得たニーズを社内に持ち帰った際に、素晴らしい技術や知識というシーズを持つ社員とともにコミュニケーションをはかり製品開発を進めていくなかで、お互いを尊重するためにも、自分の考えばかりを表立って話さないようにしていると仰いました。
経営者が社業において人を大切にするということは、以下のようなことであると感じました。
・ 自社の社員が持つ高い技術力や知識や独自性(シーズ)を、市場が求めているもの(ニーズ)に繋げること。
・ 人間ネットワークをより広げていく上で、相手との対話のキャッチボールを大切にし、お互いを尊重し合える間柄を創ること。
・ 社員や出会った人を大切にするだけでなく、彼らとともに創り上げた商品やサービスを実際に利用する人たち、エンドユーザーのことも大切にして、より良いものが創れるように検討と開発を重ねていくこと。

