日時:令和7年3月12日(水) 15:00~
場所:清川メッキ工業㈱ 本社事務所会議室
講師:人を大切にする経営学会 副会長、株式会社さくら住宅 相談役 二宮 生憲 氏
テーマ『五方良しの経営とは』

二宮相談役は、さくら住宅の創業から現在に至るまでの経験、そして「人を大切にする経営学会」の副会長としての知見をもとに、「五方良しの経営」の本質について語った。本講演では、経営者が自ら考え抜くこと、そして継続することの大切さを軸に、企業の在り方や社会的責任、人材育成について話が展開された。
「五方良し経営」とは
「五方良し経営」とは、近江商人の「三方良し(売り手良し・買い手良し・世間良し)」に、さらに二つの視点を加えた考え方である。
1社員とその家族
2仕入先・協力業者とその家族
3お客様
4地域住民(障がい者を含む)
5株主
企業経営は、単に顧客や株主だけの利益を追求するものではなく、関わるすべての人が幸せになることを目指すべきだという考え方である。二宮相談役は、「企業は社会の一部であり、社員を大切にすることで初めて、お客様や地域、ひいては社会全体に貢献できる」と強調した。
効率だけを追求する危険性
近年、効率化が最優先される風潮があるが、二宮相談役は「効率の良さばかりを追求するのは危険」だと指摘する。例えば、さくら住宅のリフォーム事業では、電球ひとつの交換でも何度も顧客のもとを訪れることがある。これは決して効率的ではないが、顧客との信頼関係を築き、長期的な企業価値を高めるために重要なプロセスである。また、経営判断を下す際には、「損か得か」ではなく、「正しいか正しくないか」で考えるべきだと説く。坂本光司氏や京セラ創業者・稲盛和夫氏も、「経営の指針は常に正しい道を選ぶこと」と強調しており、これは経営者にとって不可欠な資質である。
「継続する力」とは何か
企業が長く存続するためには、「継続する力」が欠かせない。しかし、継続とは単に同じことを繰り返すことではない。
「去年よりも少しでも良い方向に改善し続けることが、本当の継続」
例えば、経営者が1か月に何度もセミナーや勉強会に参加しても、それだけで満足してしまっては意味がない。大切なのは、そこで得たヒントを「自分なりに考え抜き、具体的な行動に落とし込むこと」である。また、「継続する力」を支えるのは、社員との信頼関係である。そのためには、経営者自身が努力し、背中で示すことが不可欠だ。
「企業の使命」と経営の透明性
二宮相談役は、「企業の使命は税金を1円でも多く納め、社会の役に立つこと」だと主張する。
例えば、公共インフラや教育、福祉は税金によって支えられている。そのため、節税に走るのではなく、適正な利益を確保し、社会に貢献することが企業の本来の役割だと説く。さくら住宅では「社員第一主義」を掲げ、月次決算を全社員に公開し、経営の透明性を確保している。また、経営の健全性を保つため、価格競争には参加せず、品質と信頼を重視する経営方針を貫いている。例えば、職人や協力業者には適正な報酬を支払い、その代わりに高品質な仕事を求めることで、長期的な信頼関係を築いている。

講師:株式会社さくら住宅 代表取締役社長 小林 久祉氏
テーマ『2年間の経営について』

小林社長は、「2年間の経営について」をテーマに講演を行った。
福井市出身の小林社長は、3年前にさくら住宅の社長に就任。それまでのキャリアや、創業者・二宮相談役からの事業承継の経緯、そして現在の経営方針について語った。
事業承継にあたっては、以下の3つのポイントが大きな役割を果たしたという。
1年間の個別経営教育を受け、経営の考え方を学ぶ機会を得たこと
投資育成会社を株主に迎え、株主構成を整理したこと
創業者が本社を離れ、次世代に経営を任せる環境を整えたこと
このように、単に社長交代をするのではなく、組織の体制を整えた上で承継を進めたことが、スムーズな世代交代につながったと振り返った。
また、事業承継において小林社長が特に重視したのは、「変わらないこと」と「変わらなくてはいけないこと」を明確にすることだったという。
「変わらないこと」を探すため、社員全員に意見を募り、共通して挙がったのは以下のような価値観だった。
「五方良しの経営」
「社員第一主義」
「礼節やマナーの重視」
「手間を惜しまない姿勢」
これらの企業理念や価値観は、さくら住宅の強みであり、今後も変えてはいけないものだと再確認したという。
一方で、時代の変化に対応するため、以下のような「変わらなくてはいけないこと」にも積極的に取り組んでいる。
DX化の推進(業務のデジタル化、システム導入)
働き方改革(社員の負担軽減、ワークライフバランスの改善)
採用難への対応(若手人材の確保、職人育成の強化)
このように、「変わらないこと」と「変わらなくてはいけないこと」のバランスをとりながら、経営を支えていくことが重要だと強調した。
また、講演の随所で創業者・二宮相談役へのリスペクトが感じられたのも印象的だった。
「俺がいると口出しするから」と、自ら本社を離れた創業者の決断に触れつつ、それを支えにしながらも、自身のやり方で会社を発展させていこうとする小林社長の覚悟が伝わってきた。
最後に、小林社長は、
「五方良しの経営をさらに進化させ、社会に貢献する企業を目指す」
と力強く語り、講演を締めくくった。

質疑応答
質疑応答では、主に事業承継や経営者の在り方についての質問が寄せられた。
後継者を選ぶ際の基準
→ 「最も重視したのは人柄」と二宮相談役は明言。仕事の能力は後からでも補えるが、誠実さや責任感が不可欠であると語った。
「目標設定と社員の競争意識」について
→ 社員同士を競わせるのではなく、個々の目標を設定することが重要と回答。長期的な視点で成長を見守ることが大切だと話された。
「部下への伝え方」について
→ 「1回や2回ではだめ。3回でも4回でも1か月でも言い続ける」と、継続の大切さを強調した。
最後に、「社員の定着と給与制度」についての質問に対し、「給与だけでなく、経営者との信頼関係が重要」と締めくくられた。
